【言語聴覚士が教える】発語が無い子へのことば促すアプローチ
言語聴覚士*はる
2025/04/21

子どもが成長していく中で、言葉がなかなか出ない様子がみられると少し心配ですよね。発語の道のりは個人差があり、ゆっくりの子がいれば早い子もいるのが事実です。ただ、やはり早い子を見ると、「自分の子は遅れているのかな?」と不安になるご両親も少なくないでしょう。
この記事では、発語が見られない子どもに対して、どのように発語を促していくか、実践的なヒントをご紹介します。
1. まずは「ことばの準備運動」から

発語には、聴く力・真似する力・コミュニケーションへの意欲など、たくさんの力が必要です。発語が出る前に育てたい力には、以下のようなものがあります。
• 音に反応する力
(名前呼ばれて振り向く、音楽に反応)
• 模倣する力
(動作や表情をまねる)
• 共同注意
(相手と一緒に同じものを見る・遊ぶ)
• 相互やりとりの楽しさ
(「伝えたら返ってくる」という経験)
これらの力をじっくり育てることで、「話す準備」が整っていきます。
まずは、「人」という存在に意識を向け、自分だけの世界ではなく他者と関わることへの興味関心を伸ばすことを目標にしていきましょう。
2. 理解しやすいように工夫をする

発語がない子どもには、言葉だけのやり取りが伝わりにくいことがあります。視覚的な手がかりを使うことで、相手が何を伝えたいか理解しやすくなります。また、その視覚的手がかりを使って伝えようとする姿に注目することで、他者への意識が高くなっていくのです。
それでは以下で視覚的な手がかりの例をお伝えします。
•絵カードや写真で伝えたい様子を見せる
• 指さしやジェスチャーに言葉を添える
(例:「(みかんを見せながら)みかん?食べたいの?」)
•「パチパチ」「ブーン」など一緒に伝えることで音と動作をリンクさせる
発語がないお子さんは、言葉の理解面や人への意識が低いことが多いので、複数個の感覚を使って伝わりやすいように工夫をしていくことが大切です。
3. 言いやすい言葉からはじめる

少しずつ他者に意識が向き、動作や言葉を真似するようになってきたら、まずは言いやすい簡単な音や言葉から始めていきましょう。
• まねしやすい音:「パ」「マ」「バ」など唇を使う音
(例:パパ、ママ、バイバイ)
•興味がある単語:好きな食べ物・おもちゃの名前(例:アンパン、バナナ、車)
•音の繰り返しがある言葉:「ワンワン」「ブーブー」など
子どもが発した不明瞭な音も、その子自身が何かを伝えようとしている様子があれば、「今、○○って言えたね!」「上手だね」とほめるようにしましょう。
4. やりとりの中で言葉を交える

ことばは、人との関わりの中で自然と出てくるものなので、遊びなどを通して言葉を交えてあげるとよいでしょう。やりとりの例は以下のようなものがあります。
• 要求のやりとり
おもちゃなどを介して「ちょうだい」「どうぞ」のやりとりを行う。言葉で言えなくても動作などで伝えようとしていたら、言葉を添えながら行動していく。
•繰り返し遊ぶ
同じ遊びの中で、同じ言葉を何度も聞かせる
• ごっこ遊びを取り入れる
おままごとや役割のあるごっこ遊びをする
子ども自身が、「この人に伝えたいことがある!」「お話したい」という気持ちが育めるような関わり方が大切です。
5. ふれあい遊びなどをたくさんする

発語がない子どもにとって、大切なのは「人と遊ぶことが楽しい」「人と関わることが楽しい」と感じるような関わり方です。そのためには、その子が好きな遊びを繰り返し経験させることが重要です。
ふれあい遊びのなかでも、高い高いやくすぐり、回転遊びなどさまざまなものがあるので、その子の好きな刺激を探して繰り返していきましょう。「もっとやりたい」「もう一度」といった要求をどんどん引き出していくことがおすすめです。
言葉ではいえなくても、動作で伝えようとするだけでコミュニケーションの能力は育っています。
発語が全くない子どもに対して上でご紹介したように、さまざまな方法で関わることはできますが、なにより一番大切なのは「発語がなくても褒めること」です。
発語がなくても、動作や目線などで何かを伝えようとする姿がみられたら、すぐに褒めてあげましょう。また、その気持ちを受け止めコミュニケーションを繰り返すことで、「この人に何かを伝えたい」「もっと話したい」と意欲が育まれていきます。
子ども自身の「伝えたい」という気持ちを育てていくことが、発語への近道といえるでしょう。
また発語がないときのお悩みは、お住まいの自治体で1歳半検診や3歳検診などで相談したり、かかりつけの小児科で相談したりすることができます。
お悩みを抱え込みすぎず、相談してみてくださいね。また、目安としては指差しも全くしないで、発語も全くない、目が合わないなどの様子が2歳以降も続くようでしたら、一度ご相談してみることをおすすめしています。
まとめ

今回は、発語が全くない子への発語の促し方についてご紹介しました。その子の発達状況に合わせて、関わり方も変わってきますが、一番に大切なのは信頼関係なので、お子さんと動作や表情などを交えながらたくさんコミュニケーションをとっていきましょう。 子どもが「人と関わることが楽しい!」と思えることが大切です。

言語聴覚士*はる
経歴:言語聴覚士歴:10年目
2児の母をしながら、児童発達支援施設にて、楽しく遊びながら子供たちの「伝えたい!」という気持ちを育てることをモットーに